医学論文でデータの特徴を要約するとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「平均値」ではないでしょうか。
しかし、扱っているデータの分布によっては、平均値よりも中央値の方がデータの中心を表す代表値として適している場合があります。
今回は、平均値と中央値の違い、それぞれの特徴、そしてどちらを報告すべきかを判断する際のポイントについて解説します!
中央値と平均値の違いとは?

平均値と中央値は、どちらもデータ全体の特徴を1つの数値で表す「代表値」ですが、計算方法と性質が異なります。
- 平均値(mean):すべてのデータを合計し、データの個数で割った値
- 中央値(median):データを小さい順に並べたとき、真ん中に位置する値
例えば、5人のデータが「1、2、3、4、10」だったとします。
この場合、
- 平均値:$\bar{x}=\frac{1+2+3+4+10}{5}=\frac{20}{5}=4$
- 中央値:3
となります。
平均値はすべてのデータの大きさを使って計算するのに対し、中央値はデータを並べたときの順位を基準に決まるという違いがあります。
そのため、平均値は極端に大きな値や小さな値の影響を受けやすく、中央値はその影響を受けにくいという特徴があります。
この性質の違いが、平均値と中央値を使い分ける重要なポイントになります。
なぜ使い分けが必要なのか?

平均値と中央値の違いを理解するうえで重要なのが、極端な値(外れ値)の影響です。
平均値はすべてのデータの値を使って計算するため、極端に大きい値や小さい値が含まれると、その影響を強く受けます。一方、中央値はデータを小さい順に並べたときの順位を基準に決まるため、極端な値が含まれていても影響を受けにくいという特徴があります。
具体例で見てみましょう。10人の患者の入院日数が次のようなデータだったとします。
| 患者 | 入院日数(日) |
|---|---|
| 1 | 3 |
| 2 | 3 |
| 3 | 4 |
| 4 | 4 |
| 5 | 4 |
| 6 | 5 |
| 7 | 5 |
| 8 | 5 |
| 9 | 6 |
| 10 | 60 |
このとき、平均値は
$\bar{x}=\frac{3+3+4+4+4+5+5+5+6+60}{10}=\frac{99}{10}=9.9$
となり、平均入院日数は9.9日です。
一方、中央値は中央に位置する5番目と6番目の値(4日と5日)の平均なので、
$Median=\frac{4+5}{2}=4.5$
となります。
このように、1人だけ60日という長期入院例があることで、平均値は4~5日程度から9.9日まで大きく上昇しています。一方、中央値は4.5日のままです。
このように、一部の極端な値によって平均値が大きく変化する場合、中央値の方がデータの中心を表すのに適していることがあります。
特に、少数の患者だけ非常に大きな値をとることがあるデータでは、この違いが重要になります。
このように、データの一方に長い裾を持つ分布を「歪んだ分布」といいます。
今回の入院日数の例では、大きい値の方向に長い裾を持つため、「右に歪んだ分布(右に裾を引く分布)」と呼ばれます。
右に歪んだ分布では、一般に
$中央値 < 平均値$
という関係になります。
ただし、平均値が大きくなること自体が「間違い」というわけではありません。
平均値は「すべての患者の入院日数を合計して患者数で割った値」なので、この場合の9.9日も数学的には正しい平均値です。
重要なのは、研究目的やデータの分布を考慮して、どの代表値がデータの特徴を適切に表しているかを判断することです。

どちらを使うべきか判断する方法

では、実際に医学論文でデータを要約するとき、平均値と中央値のどちらを使えばよいのでしょうか。
基本的には、①分布の形を確認する → ②ばらつきの指標を選ぶ → ③極端な値の影響を確認するという流れで考えると分かりやすいでしょう。
① ヒストグラムで分布の形を確認する
まず、データのヒストグラムを描き、データがどのような分布をしているのかを確認します。
例えば、
- 左右が比較的対称な分布
- 右または左に長い裾を持つ分布
- 極端に大きい(または小さい)値が存在する分布
などの特徴を確認します。
左右が比較的対称な分布では、平均値がデータの中心を表す代表値として適していることがあります。
一方、右に歪んだ分布になりやすいデータでは、中央値が中心を表す代表値として適していることが多くあります。
ただし、「正規分布なら平均値、正規分布でなければ中央値」というように、分布だけで機械的に決めるわけではありません。
研究目的やデータの性質、解析方法なども考慮して、適切な代表値を選択することが重要です。
② ばらつきの指標も合わせて選ぶ
代表値を報告するときは、中心を表す値だけでなく、データがどの程度ばらついているのかも一緒に示す必要があります。
代表的な組み合わせは次のとおりです。
| 代表値 | ばらつきの指標 | 表記例 |
|---|---|---|
| 平均値 | 標準偏差(SD) | mean ± SD |
| 中央値 | 四分位範囲(IQR) | median [IQR] |
平均値と標準偏差を用いる場合は、
$Mean \pm SD$
のように表します。
一方、中央値と四分位範囲を用いる場合は、
$Median\ [Q_1,Q_3]$
のように表します($Q_1$ は第1四分位数、$Q_3$ は第3四分位数)。
四分位範囲(IQR)は、$IQR=Q_3-Q_1$で計算されます。
つまり、平均値を使うならSD、中央値を使うならIQRという組み合わせが一般的です。
標準偏差と標準誤差の違いについては「標準偏差(SD)と標準誤差(SE)の違いとは?」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
③ 外れ値の影響を確認する
最後に、極端な値が平均値や中央値にどの程度影響しているかを確認します。
ただし、極端な値があるからといって、そのデータを単純に除外してはいけません。
例えば、入院日数が60日だった患者がいたとしても、それが入力ミスではなく実際に60日間入院していたのであれば、そのデータは重要な観測値です。
そのため、極端な値を見つけた場合には、
- 入力ミスや測定ミスではないか
- データの定義や測定方法に問題がないか
- 実際に起こり得る値なのか
- その値を含めた場合と除外した場合で結果が大きく変わらないか
などを確認します。
外れ値の扱い方については「外れ値の検出方法と外れ値があるときの解析方法を解説!」で詳しく解説しています。
このように、外れ値を機械的に除外するのではなく、その値がなぜ生じたのかを確認したうえで、代表値や解析方法を検討することが重要です。
まとめ

今回は、中央値と平均値の使い分けについて解説しました!
- 平均値はすべての値の大きさを反映するため、極端な値の影響を受けやすい
- 中央値はデータの順位をもとに決まるため、極端な値の影響を受けにくい
- 平均値+SD、中央値+IQRという組み合わせがよく用いられる
- 分布が歪んでいる場合は、中央値が代表値として適していることが多いが、研究目的やデータの性質も考慮して判断する
論文でデータを要約する際は、「平均値と中央値のどちらが正しいか」ではなく、「データの特徴をどちらが適切に表現できるか」を考えることが重要です。
まずはヒストグラムや箱ひげ図などで分布の形を確認し、代表値とばらつきの指標を選ぶようにしましょう!



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