新しい治療が、既存の治療に対して「劣っていない」ことを示す非劣性試験では、あらかじめ「新しい治療の有効性がどの程度まで低くても許容できるか」という基準を決めておく必要があります。
この基準を非劣性マージンといいます。
今回は、非劣性試験の結果を左右する重要な要素である非劣性マージンの決め方について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。
非劣性マージンとは?

非劣性マージンとは、新しい治療の効果が対照治療よりどの程度まで低くても、臨床的に許容できると考えるかを示す基準値です。
非劣性試験では、「新しい治療と対照治療に差がない」ことを証明するのではありません。
「新しい治療の効果が対照治療より多少低かったとしても、その差があらかじめ定めた許容範囲内である」ことを示します。
例えば、治療効果を「新治療 − 対照治療」という差で評価し、非劣性マージンを−5%と設定したとします。
ここで、−5%は試験で観察された差ではなく、試験開始前に設定する「許容できる差の限界」です。
実際の試験では、新治療と対照治療の効果を比較し、その点推定値の差と信頼区間を求めます。
非劣性の判定では、この信頼区間があらかじめ設定した非劣性マージンを超えていないかを確認します。
非劣性マージンを広く設定しすぎると、実際には対照治療よりかなり劣っている治療でも非劣性と判断される可能性があります。
そのため、非劣性マージンは、臨床的・統計学的な根拠に基づいて事前に設定することが重要です。
マージンの決め方の基本的な考え方

非劣性マージンの設定では、大きく分けて次の2つの考え方が重要になります。
1. 臨床的に許容できる差を考える
まず、「新しい治療の有効性がどの程度低下しても、臨床的に許容できるか」を考えます。
例えば、新しい治療に、以下のようなメリットがある場合、有効性が多少低くても、新しい治療を使用する意義がある可能性があります。
- 副作用が少ない
- 投与回数が少ない
- 投与方法が簡単
- 患者さんの負担が小さい
このように、「どの程度の有効性の低下なら臨床的に許容できるか」という視点から、
非劣性マージンを検討します。
2. 対照治療の効果をどの程度保持するかを考える
もう一つ重要なのが、
過去の試験で確認された対照治療の効果を新しい治療でもどの程度保持する必要があるか
という考え方です。
例えば、過去の試験で対照治療Aの治療成功率がプラセボより10%高いことが確認されていたとします。
ここで、非劣性マージンを5%とすると、Aより最大5%低い治療まで非劣性と判断される可能性があります。
さらに、Aに対して治療Bが4%低くても非劣性、Bに対して治療Cが4%低くても非劣性、という試験を繰り返すと、
A:90% → B:86% → C:82%
のように、治療効果が徐々に低下していく可能性があります。

このように、非劣性試験を繰り返すことで、少しずつ効果の低い治療に置き換わってしまう現象を
バイオクリープ(biocreep)といいます。
そのため、非劣性マージンを設定するときには、単に「新治療と対照治療の差をどこまで許容するか」だけでなく、
過去に確認された対照治療の効果をどの程度保持する必要があるかも考えることが重要です。
具体例で考えてみる

例えば、対照治療Aと新治療Bについて、治療成功率を比較するとします。
過去の試験から、対照治療Aはプラセボと比較して、治療成功率を10%程度改善する効果があると考えられているとします。
ここで、新治療Bには、
- 副作用が少ない
- 投与回数が少ない
- 投与方法が簡単
- 患者さんの負担が小さい
などのメリットがあるとします。
この場合、新治療Bの有効性がAより多少低下したとしても、それらのメリットを考慮すると、
新治療Bを使用する意義がある可能性があります。
そこで、新治療Bのメリットと有効性が低下することによるデメリットを比較し、
臨床的に許容できる差を検討します。
例えば、この検討から「治療成功率がAより5%程度低下するまでなら、Bのメリットを考慮すれば許容できる」と判断された場合、5%程度の非劣性マージンが候補となります。
このように、非劣性マージンは、「どの程度の有効性の低下なら、新治療のメリットを考慮しても臨床的に受け入れられるか」というリスク・ベネフィットの観点と、
過去に確認された対照治療の効果の両方を踏まえて設定することが重要です。
信頼区間を用いた非劣性の判定

非劣性試験では、新治療と対照治療の効果の差について信頼区間を計算し、
その信頼区間の下限が非劣性マージンを上回っているかを確認します。
例えば、
- 効果の差:新治療 − 対照治療
- 非劣性マージン:−5%
- 95%信頼区間:−3% ~ 4%
だったとします。
この場合、95%信頼区間の下限は−3%であり、非劣性マージンである−5%を上回っています。
したがって、あらかじめ設定した非劣性マージンを超えて新治療が劣る可能性は、
統計的に許容できる範囲にあると判断され、非劣性が示されたと考えます。
一方、95%信頼区間が−7% ~ 2%だった場合、
信頼区間の下限は−7%となり、非劣性マージンである−5%を下回っています。
この場合、新治療が対照治療よりも非劣性マージンを超えて劣る可能性を否定できないため、
非劣性は示されません。
つまり、非劣性試験では、
95%信頼区間の下限 > 非劣性マージン
となっているかどうかが、非劣性を判断する重要な基準となります。

まとめ

非劣性マージンは、単純に「何%までなら有効性が低くてもよい」と決める値ではありません。
重要なのは、
- 臨床的にどの程度の有効性の低下まで許容できるか
- 対照治療が過去の試験で示してきた効果をどの程度保持する必要があるか
- 過去の試験結果にどの程度の不確実性があるか
を総合的に考えることです。
特に非劣性試験では、対照治療の有効性が過去の試験で適切に確立されていることや、過去の試験で確認された対照治療の効果が、現在の試験でも同様に期待できることも重要になります。
非劣性マージンは、「新治療がどこまで劣ってもよいか」という観点だけでなく、
「対照治療の確立された効果をどこまで保持しなければならないか」という観点から考えましょう!


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