医学研究では患者の予後と関連する因子を特定することを目的とした研究が行われることがあります。このような研究は予後因子探索や予測因子探索を目的とした研究と呼ばれます。
予後因子探索と予測因子探索は研究として数多く行われていますが、
その中には誤用されている研究も多々あります。
みなさんは予後因子と予測因子の違いをちゃんと理解できているでしょうか?
この記事では予後因子と予測因子の違いとどのように判断するかについて解説します!
違いを理解して正しく使い分けられるようになりましょう!
この記事のpoint!
- 予後因子は治療によらず患者の予後に影響がある因子
- 予測因子は治療によって患者の予後に影響がある因子
- 予後因子と予測因子の探索には治療効果の比較が必要!
予後因子と予測因子とは?
まず予後因子と予測因子の定義を見ていきましょう!
予後因子 prognostic factor
予後因子(prognostic factor)とは「治療に関わらず患者の予後に影響する因子」のことです。
重要なのは「治療に関わらず」という点で、どんな治療を受けても因子間で予後に違いがある必要があります。
例えば、がんの臨床病期。
がんの臨床病期はI、II、III、IVの4段階で評価されます。このがんの臨床病期では治療によらずI < II < III < IVの順に予後がだんだんと悪くなるとされています。
このような治療に関係なく患者の予後に影響する因子を予後因子と呼びます。
予測因子 predictive factor
予測因子(predictive factor)とは「特定の治療において治療効果に影響する因子」のことです。
つまり、予測因子が分かれば治療効果がある集団と治療効果がない集団を特定することができます。
そのため、予測因子は治療効果を予測するために役に立つ因子として「効果予測因子」とも呼ばれます。「効果予測因子」の方が予後因子との誤解がなくなるので「効果予測因子」で覚えておきましょう!
予測因子の例としては、抗悪性腫瘍薬のゲフィチニブのFGFR遺伝子変異が挙げられます。
ゲフィチニブはEGFR遺伝子変異陽性の再発非小細胞肺癌を対象とした適応がされています。
これはEGFR遺伝子変異陽性とEGFR遺伝子変異陰性での患者の予後を比較したところ、
- EGFR遺伝子変異陽性では治療効果が得られた
- EGFR遺伝子変異陰性では治療効果を得られなかった
そのため、EGFR遺伝子変異が効果予測因子であり、EGFR遺伝子変異陽性にのみ適応されています。
参考:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/drug/update/201112/523003.html
このように治療効果を予測する因子を効果予測因子と呼びます。
予測因子と予後因子の探索には治療効果の比較が必要!
予後因子と予測因子を探索する研究では、よく「一つの治療を受けた患者の予後を因子ごとに比較する」ことで、予後因子と予測因子を探索していることがあります。
ただこれは間違った解析方法です!
例えば、ある治療による予後を性別で比較したときを考えましょう。
女性の方が予後がいい場合、性別は予後因子でしょうか?予測因子でしょうか?
ズバリ!予後因子とも予測因子とも言えません!
というのも、
予後因子は「治療によらず」、予測因子は「治療によって」予後に影響がある因子のため、治療が関与しているかを見なければ、予後因子か予測因子かと判断することはできません。
そのため、予後因子と予測因子の探索には複数治療での比較が必要になります。
予後因子探索と予測因子探索の方法
予後因子探索と予測因子探索はどちらもサブグループ解析やCox比例ハザードモデルやロジスティックモデルを用いた多変量解析で行われることが一般的です。
今回はサブグループ解析を使って予後因子と予測因子を探索した研究からどのように解析するか見ていきましょう!
取り扱う研究
今回例としてお示しするのは以下の論文です。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5543832/
この研究は非小細胞肺がんを対象にエルロチニブの予後因子、予測因子の探索を目的とした研究です。
この研究では「非小細胞肺がんを対象としたエルロチニブの有効性を検証するプラセボ対照ランダム化試験」のデータが使われています。
そのため、予後因子と予測因子を探索するときは、各因子においてエルロチニブとプラセボの治療効果を比較して予後因子と予測因子のどちらに該当するかを判断していきます。
この論文の性別と喫煙歴によるサブグループ解析の結果を見ていきましょう!
性別によるサブグループ解析の結果
エルロチニブ群における性別による生存期間は以下のようになっています。
この結果から「エルロチニブ群では女性の方が予後良好」ということが分かるかと思います。
これを見て「女性のほうが予後がいいから性別は予後因子だ!」と思った方はちょっと待ってください!
予後因子と予測因子は治療によってサブグループごとの治療効果が変わるかを見る必要があるので、エルロチニブ群だけの結果では判断することはできません。
そのため、エルロチニブ群に加えてプラセボ群の結果も見てみましょう。
そうすると、エルロチニブ群とプラセボ群の治療効果の差は男性、女性ともに同等であり、
どちらも男性よりも女性のほうが予後が良いことが分かります。
これらの結果から「性別は予後因子」として結論付けることができます。
喫煙歴によるサブグループ解析の結果
次に喫煙歴によるサブグループ解析の結果を見ていきましょう。
喫煙歴は「現在喫煙中または過去吸っていた(喫煙歴あり)」と「全く吸っていない(喫煙歴なし)」の2つの群で比較されています。
喫煙歴によるサブグループ解析の結果はこの通りです。
注目してほしいのは、「喫煙歴あり」のエルロチニブ群とプラセボ群の治療効果の差と「喫煙歴なし」のエルロチニブ群とプラセボ群の治療効果の差です。
これを見ると「喫煙歴あり」の方では治療効果に差がない、一方で「喫煙歴なし」の方では治療効果に差があります。
この結果から、喫煙歴がない患者の方がエルロチニブの効果が得られ、「喫煙歴は治療効果予測因子である」と判断することができます。
まとめ
今回は予後因子と予測因子の定義とその使い分けについて解説しました!
御用されやすい用語ですが、正しく使い分けてよい研究ライフを!
この記事のまとめ
- 予後因子と予測因子はどちらも予後に影響がある因子
- ただし、治療に依存するか依存しないかで予後因子か予測因子かを判断する!
- そのためには因子ごとにサブグループ解析を行って治療効果を比較する必要がある!
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