【ランダム化比較試験の代表的な解析対象集団】ITT(intention-to-treat)とPPS(per protocol set)の違いとは?使い分け方も解説!

臨床試験において治療効果を適切に評価するためには適切に解析対象集団を設定する必要があり、解析対象集団は研究を行う前にプロトコールに記載する必要があります

代表的な解析対象集団にはITT解析対象集団PPSという2つの解析対象集団があります。これらはICH-E9にも記載されており、臨床試験を行う研究者が全員知っておくべき解析対象集団です。

この記事ではITT解析対象集団とPPSの解析対象集団の違いと特徴について解説します!
どちらの解析対象集団を採用すべきかの判断基準も説明しているので、ぜひ最後までご覧ください!

ITT解析対象集団とPPSの定義と考え方

ittとppsの違い

代表的な解析対象集団としてITT(intention-to-treat)解析対象集団PPS(per protocol set)という2つの解析対象集団があります。

解析対象集団が事後的に設定されると恣意的な患者選択にもつながることがあるため、どちらの解析対象集団を設定するかは試験を行う前にプロトコールに記載する必要があります。

以下では代表的な解析対象集団としてITT(intention-to-treat)解析対象集団とPPS(per protocol set)の定義と考え方について解説します!

ITT(intention-to-treat)解析対象集団

ITT(intention-to-treat)はどんな治療経過であったとしても、ランダム化に割り付けられた症例をその群に割り付けられたものとして解析する考え方です。つまり、治療Aに割り付けられた人が治療Bを受けたとしても、治療Aとして解析対象に含める、ということになります。
その考えに従った解析対象集団をITT解析対象集団と呼ぶことがあります。

ITT解析対象集団では、有意な差がつきにくいという特徴があります。
例えば、治療Aと治療Bの効果を比較して、治療Aに対する治療Bの優越性を検証する臨床試験を考えてみましょう!本当に治療Bが治療Aより効果がある場合、ITTの解析対象集団では治療B群の方に治療Aを行った患者が含まれるため、治療B群の効果が薄まることになります。

そのため、ITTの解析対象集団を用いると治療効果の差が小さくなり、有意な差がつきにくくなります。

PPS(per protocol set)

PPS(per protocol set)は実際にプロトコールに従った治療を行った対象のみを解析対象とする考え方です。

例えば、患者を治療Aと治療Bにランダムに割り付ける臨床試験の場合、治療Aに割り付けられたのに治療Bを行うなど、ちゃんと割り付けられた治療を行わないような患者が発生します。PPSではこのような対象を除いて、治療A群に割り付けられて治療Aを受けた患者と治療B群に割り付けられて治療Bを受けた患者のみを解析対象とします。

PPSでは治療をちゃんと計画通り受けた患者が解析対象となるため、プロトコール治療を完遂したときの「真の」治療効果を確認することができます

ただし、PPSから除外される対象には強い毒性や有効性が不十分だったために、途中で治療をやめてしまった対象がいることには注意が必要です。そのような除外例は十分な治療効果が得られないことが考えられますし、ランダム化による比較可能性が失われることになります。

そのため、PPSは実臨床の結果に比べて治療効果を過大評価してしまいます

ITT解析対象集団とPPSのどちらを解析対象とするかは試験デザインによって変わる!

ではITT解析対象集団とPPSどちらを臨床試験の意思決定を行うメインの解析対象とすべきでしょうか?

どちらの解析対象集団を選択するかは、試験デザインによって変わってきます!
ここでは試験デザインとは優越性試験、非劣性試験、同等性試験のことを示します。

「どの試験デザインを選択するべきか」を考える上で前提となっていることは
「検定が有意になりにくい方の解析対象を選択する」
ということです。

というのも、臨床試験の統計的な前提としてβエラーよりもαエラーを抑えたいという考えがあります。つまり、検定が有意になりやすいよりも検定が有意になりにくい(帰無仮説が棄却されない)ように解析したい、ということです。

なぜβエラーよりαエラーを重視する?

αエラーとβエラーはそれぞれ患者リスク研究者リスクと言われることがあります。つまり、αエラーが大きいときは患者に不利益が、βエラーが大きいときは研究者に不利益が大きくなります。
臨床試験では比較的弱い立場にある患者保護の観点が強いため、αエラーの方が重視されます

以下では試験デザインごとにITT解析対象集団とPPSどちらをメインの解析対象にするかを見ていきましょう!

以下では、治療Aを比較対象として、治療Bの治療効果の優越性、非劣性、同等性を検証する試験を考えます。

試験デザイン目的帰無仮説適した解析対象集団
優越性試験治療Aよりも治療Bが治療効果が高いことを示す治療Aと治療Bの治療効果に差がないITT解析対象集団
非劣性試験治療Aよりも治療Bの治療効果が劣っていないことを示す治療Aよりも治療Bの方が治療効果が劣っているPPS
同等性試験治療Aと治療Bの治療効果が同等であることを示す治療Aと治療Bの治療効果に差があるPPS

優越性試験ではITT解析対象集団

優越性試験ではITT解析対象集団がメインの解析対象集団となります。

優越性試験では帰無仮説を「治療Aと治療Bの治療効果に差がない」と設定します。このとき、αエラーが大きくなるのは「本当は差がないのに治療Bの方が有効である」となるときです。つまり、αエラーを抑えるためには、治療Bの方の治療効果を過小に評価するようにすればよいわけです。

そのため、優越性試験では有意な差がつきにくいという特徴があるITT解析対象集団がメインの解析対象集団となります。

非劣性試験、同等性試験ではPPS

非劣性試験、同等性試験ではPPSがメインの解析対象集団となります。

非劣性試験と同等性試験では帰無仮説をそれぞれ「治療Aよりも治療Bの方が治療効果が劣っている」、「治療Aと治療Bの治療効果に差がある」というように設定します。このとき、「治療Aと治療Bの治療効果に差がない」場合に有意になります。つまり、αエラーを抑えるには「差がある」と結論付ける確率を上げればよいということになります。

そのため、非劣性試験、同等性試験では「差がある」といいやすくなるPPSがメインの解析対象集団となります。

ITT解析対象集団とPPSの両方で治療効果を確認しよう!

優越性試験ではITT解析対象集団、非劣性試験、同等性試験ではPPSがメインの解析対象集団になると説明しました。

た だ し
あくまで「メインの解析対象集団は」です。

臨床試験では両方の解析対象集団に対する感度解析を行うことで、臨床試験の報告の質を上げることにつながります。例えば、両方の解析対象集団で同様の結果が得られれば、治療効果の推定値に対する頑健性を示すことができます。

ICH-E9でも以下のように記載されています(最大の解析対象集団がITT解析対象集団、治験実施計画書に適合した対象集団がPPSです)。

一般に、解析に用いる被験者集団の選択の変更を行っても、主要な試験結果が変わらないことを示すことは有益である。検証的試験では、最大の解析対象集団の解析と治験実施計画書に適合した対象集団の解析との相違を明示的な議論と解釈の対象にできるよう、通常両方の解析を計画することが適切である。...最大の解析対象集団の解析と治験実施計画書に適合した対象集団の解析が本質的に同じ結論に達する場合、 試験結果の信用度は高くなる。

そのため、臨床試験の結果を示すときには、両方の解析対象集団に対する解析結果を示すようにしましょう!

まとめ

各記事のまとめ

今回は代表的な解析対象集団であるITT(Intention-to-treat)解析対象集団PPS(per protocol set)について解説しました!

ITT解析対象集団は「ランダム化で割り付けた通りに比較を行う」のに対して、PPSでは「ランダム化で割り付けられた治療をちゃんと行った対象に限定して比較を行う」という解析対象集団でした。

どちらの解析対象集団を臨床試験の意思決定を行うメインの解析対象集団にするかは試験デザインによって変わってきて、優越性試験ではITT解析対象集団、非劣性試験、同等性試験ではPPSがメインの解析対象集団となります。

解析対象集団が適切に選択されることで研究の質や評価も変わってきますので、代表的な解析対象集団はぜひ覚えておきましょう!

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