【誤解を招く研究報告はNG!】研究結果の印象操作(スピン)の問題と対策を解説!

医学研究の成果は論文や学会発表のような形で世に出ていきます。
世に出た研究成果は日常臨床を変えたり、次の研究の発案に役立てられます。

ただ研究成果は常に正しいというわけではなく、場合によっては研究成果を良く見せるような印象操作(スピン)が起こっていることがあります。スピンが起こっている研究報告は読み手の意思決定にミスリーディングを引き起こし、日常臨床へ悪影響を与える可能性があります。

そのため、スピンに対して書き手側が注意することはもちろんのこと、読み手側も注意して研究結果を吟味する必要があります。

この記事では、どのような状況でスピンが起こっているのか、スピンを起こさないように気を付けることは何か、を解説します!

研究報告の印象操作(スピン)とは?

研究報告のスピンとは「読者に対して誤解を与えるような研究報告」である

研究報告のスピン(spin)とは、(正確な定義はありませんが)「意識的あるいは無意識的に関わらず読者に対して誤解を与えるような研究報告」のことを指します。

例えば、風邪薬の効果を調べるときに、本当は「かぜが治るまでの期間」を評価することを目的に研究を立ち上げたのに、研究報告では「かぜが重症しなかったから効果があった」というように結論づけ、主目的と結論が一致しないような場合にはスピンであると考えられます。

このようなスピンはプライマリーエンドポイントで有意が示されなかったときによく起こることが報告されています(参考)。

スピンを起こしてしまう原因はある誤解から

スピンが起こる誤解は「有意差のない研究は意味のない研究」と考えること

誤解:有意差が示されなければアクセプトされない?有意差がない研究は意味のない研究?

研究者の多くは「研究結果で有意な結果が出れば論文がアクセプトされる」と考えていると感じます。場合によっては「有意差がない研究は意味がない」とも思われていることもあります。

実際に私が関わった研究の多くで、研究者に「まずどの結果が有意ですか?」と聞かれます。また、論文をレビューする際には主目的をすり替えて報告していることを指摘することがあります。

確かに有意な差が出た結果ほどまとめやすく、インパクトがある研究と見なされているのが現状です

ただ医学研究の本当の目的は「臨床的な疑問を研究を通じて解決すること」です。
「差があることを報告すること」ではありません。

このようなスピンを起こしてしまうと、本来の目的である「臨床的な疑問に対する解」をゆがめてしまうことになります。また有意差がなくとも次の研究に活かせるなど、有意差がない研究も重要な意味を持ちます。

有意差がなくても意味のある研究である

そのため、たとえネガティブな結果であったとしても、適切な研究報告を心がけ、スピンを起こさないようにすることが大切です

スピンである報告方法とそれぞれの対策は?

例示

スピンである研究報告にはどのような例があるでしょうか?
またどのように報告していくべきでしょうか?

ここでは私がこれまで見てきた以下の3つの例に対策法を見ていきましょう!

スピンが起こっている実例

  • 副次的な目的を主目的のように報告
  • 優越性試験を非劣性試験のように報告研究
  • 結果を過大に評価して報告

対策法の概要はこちらの記事でも説明していますので是非参考にしてみてください!

事例1:副次的な目的を主目的のように報告

このスピンは検証的な前向きの研究でも、探索的な後ろ向き研究でも散見されます

今回は治療Aと治療Bの治療効果を死亡までの期間(全生存期間)で比較することを目的とした研究としてそれぞれの例を見ていきましょう!

検証的な前向き研究の場合

前向き研究におけるスピンの例-副次的な目的を主目的のように報告

前向き研究ではよく、主目的をプライマリーエンドポイントとして評価して、
副次的な目的をセカンダリーエンドポイントで評価します。

一般にプライマリーエンドポイントで有意な差が示されなければ、「治療効果はなかった」と判断されます。

今回であれば、「治療Aと治療Bに全生存期間に差があるか」が主目的であり、プライマリーエンドポイントは「全生存期間」、セカンダリーエンドポイントには「増悪までの期間(無増悪生存期間)」などが含まれます。

そのため、全生存期間で治療Aと治療Bに統計学的に差がなければ、「治療Aと治療Bの治療効果に差がない」と判断されます

このような研究で散見されるスピンは、全生存期間で差がないにも関わらず、
「治療Aより治療Bの無増悪生存期間が長かったので治療Aより治療Bの方がよい治療だ」
と結論付けることです。

プライマリーエンドポイントで差がなければ、どちらがよい治療か判断することはできません。

そのため、このような研究では
「主目的の結果を述べたうえで、副次的目的の結果は添える程度に議論する」
ような報告が必要になります。

探索的な後ろ向き研究

後ろ向き研究におけるスピンの例-副次的な目的を主目的のように報告

探索的研究ではよく治療効果を調べるときに、交絡を調整する目的で多変量解析が行われます。

今回の例であれば、結果変数に全生存期間、説明変数に治療群(A or B)と交絡因子を入れて、ハザード比を評価することになります。

経験的にこのような研究で多いスピンが、主目的として治療効果の差があるかを確認していたにも関わらず、「予後因子探索のような研究にすり替わっている」ということです。つまり、交絡の調整のために多変量解析を行っていたはずが、説明変数のハザード比に差があると認めた場合「説明変数の中に全生存期間と関連するような因子がある」と予後因子探索のように報告してしまうということです。

これが起こる原因は、交絡を調整することを目的とした解析と予後因子探索を目的とした解析にはどちらも多変量解析を用いており、解析の目的を意識せずに結果を考察しているから、と考えられます。

このような報告を避けるには、解析の目的を意識して結果の見方を考える必要があります。

事例2:優越性試験を非劣性試験のように報告

優越性試験を非劣性試験のように報告

このスピンは前向き研究でよく起こるスピンです。

例えば、「全生存期間において治療Aが治療Bよりも優れていること(優越性)を検証する臨床試験」を考えてみましょう。
このような研究では、プライマリーエンドポイントである全生存期間をCox比例ハザードモデルを用いて推定されるハザード比として評価し、ハザード比の信頼区間の上限が1を下回っていれば、「治療Bの方が優れた治療である」と結論付けられます。

では、もしハザード比の信頼区間の下限が1.001のようにわずかに1を上回っている場合はどうでしょうか?

この場合、臨床試験の結果としては「優越性が示されなかった」ということになりますが、わずかに1を上回っただけなので「完全に劣ってはいない(非劣性)」と報告されることがあります

これは立派なスピンです。

そもそも優越性試験と非劣性試験では判断の基準が異なります。
優越性試験ではハザード比の信頼区間の上限が1を上回った場合に有意であると判断されるのに対して、非劣性試験ではハザード比の信頼区間の上限が事前に定めた非劣性マージンを下回った場合に有意であると判断されます

そのため、事前に決めたルールを捻じ曲げて意思決定をすることになるので、
たとえ少し劣っているだけでも優越性試験を非劣性試験のように報告することはスピンになります

事例3:研究結果を過大に評価して報告

研究結果を過大に評価して報告

このスピンはわずかな差を意味のある差のように報告してしまうスピンです。

例えば、治療Aと治療Bを比較したときに、1年時点の生存割合が1%だけ治療Bの方が長かった場合を考えてみましょう。疾患にもよりますが、多くの場合、「治療Aと治療Bでは治療効果に差がない」と判断されるところが、この小さな差に注目して「治療Bには予後を延長する可能性がある」と報告されることがあります。

ただし、生存割合の時はスピンと分かりやすいのですが、過大評価された結果と判断しずらい報告もあります

それはハザード比やオッズ比のような治療効果の推定値で報告されている場合
ハザード比が同じ1.5でも、1年生存割合が5%(90% vs. 85%)だけ違うことも、
15%(50% vs. 35%)違うこともあります。

このような誤解を生まないためにも、ハザード比やオッズ比のような要約された治療効果だけでなく、多角的な結果報告や議論を行う必要があります

スピンを避けるためには?

スピンを避けるための方法

最初に説明したように「有意差が示されなければアクセプトされない」という誤解からスピンが起こっていると考えられます。また例で示したようにどれも研究結果から何か意味のある差があることを示すように報告することでスピンが起こっていました

そのため、スピンを避けるためには、「研究結果を良く見せようとするバイアス」が働くことを意識する必要があります。つまり、研究の目的、対象、結果を中立的な立場から評価する必要があるということです。中立的な立場から評価することで、研究結果をありのまま評価することができ、スピンの多くは避けられると思います。

ただ中立的な立場から評価してもスピンを起こしてしまうこともあります。
それは解析結果を正しく解釈できない場合です。

このスピンを避けるためには統計学という道具を正しく理解して、使える能力を身に着ける必要があります

このブログは統計学を正しく使えることに重点をおいていますので、是非このブログを通して正しい解析方法と解釈を学んでもらえるとうれしいです

まとめ

各記事のまとめ

今回は研究結果のスピンの問題と対策について解説しました!

医学研究では「有意差が示されなければアクセプトされない」という誤解
過大な評価や間違った解釈を生んでいるように感じます。

それを避けるためにも医学研究の知識と統計学を正しく使える能力が必要になってきます。

このブログでは今後も使える医学研究の知識と統計学を発信していきますので、是非一緒に学んでいきましょう!

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