医学研究では、よく治療効果を比較するためにランダム化比較試験が行われます。
ランダム化比較試験では、複数の治療群に患者をランダムに割り付け、治療効果を比較する方法です。
ランダム化比較試験の大きなメリットは比較可能性が担保されることで、信頼できるエビデンスを創出できる点にあります。
ランダム化比較試験では、一般に患者が各治療群に等しい確率で割り付けられる均等割付が行われます。
その理由は、均等割付を用いると最も検出力が高くなることが知られており、
効率的に臨床試験が行えるからです。
一方で、治療群によって割付比率を変える不均等割付が行われることがあります。
ではなぜ検出力を犠牲にしても、不均等割付が行われるのでしょうか?
今回はランダム化比較試験における不均等割付の結果への影響と不均等割付が妥当と考えられる状況について解説します!
ランダム化比較試験とは?
ランダム化比較試験とは、登録された患者を複数の治療群にランダムに割り付けて、治療効果を比較する臨床試験のことです。
ランダム化比較試験で最も重要なのは、患者や研究者に関わらず、治療群にランダムに割り付けられることです。
これにより、既知の交絡因子だけではなく未知の交絡因子まで群間で同じになることが期待され、
治療群間の比較可能性が担保されます。
そのため、ランダム化比較試験は臨床試験の中でも、
エビデンスレベルの高く、信頼できるエビデンスを創出できる臨床試験デザインとなっています。
ランダム化比較試験の割付比は何に影響する?
通常ランダム化比較試験では治療群に等しい確率で割付ける均等割付が用いられます。
ただ割付確率は常に等しい確率である必要はなく、場合によっては試験治療に多くの症例を割り付けるような不均等割付が行われます。
ではランダム化比較試験において不均等割り付けを行うとどんな影響があるでしょうか?
大きな影響があるのは検出力と治療効果の推定精度の2点です。
順番に見ていきましょう!
検出力への影響
ランダム化比較試験において均等割付が用いられる理由として、均等割付が最も検出力が高くなることが挙げられます。
逆に言えば、不均等割付では均等割付に比べて、検出力が低下することになります。
この検出力は症例数に影響するため、同じ検出力の試験でも不均等割付では均等割付よりも必要症例数が増えてしまいます。実際に1:1割付よりも1:2割付では12%、1:3割付では33%ほど必要症例数が増加すると言われています。
症例数が増えることで試験の実施可能性が損なわれたり、試験のコストが増加したりと、実施上のリスクとなり得るため、
不均等割り付けを用いる際は許容できるリスクなのかを考える必要があります。
治療効果の推定精度への影響
不均等割付は均等割付に比べてプラセボ効果が起こりやすいと言われています。
例えば、プラセボ:試験治療=1:2の割付であれば、通常よりも試験治療が割り当てられることを期待します。
つまり、もし盲検下でプラセボ群に割り当てられたとしても、「試験治療群の方が多いから自分も試験治療群だろう」と考え、治療効果を期待するプラセボ効果が起こってしまいます。
そのため、プラセボ群の治療効果の推定には「治療効果がよい」というバイアスが入ってしまい、
治療効果が正しく推定できなくなってしまいます。
ランダム化比較試験の不均等割り付けはどんな時に使われる?
不均等割付は検出力の低下による必要症例数の増加や治療効果にバイアスが入るなどの問題があります。
ではそのような問題がありながら、どのような理由で不均等割付が正当化されるのでしょうか?
以下では不均等割付が正当化される3つの状況について解説します。
患者の同意取得率を上げたい場合
一点目は患者の同意取得率を上げたい場合です。
もしプラセボ:試験治療=1:2の割付であれば、
患者は通常よりも試験治療が割り当てられることを期待するため、
患者の離脱を防ぐことができ、同意取得率を上げることができます。
ただし、注意が必要なのは一般に「同意取得率が上がる」と言われますが、
そのような明確なエビデンスはないため、妥当な不均等割付の正当化とは考えられません。
薬剤の用法・用量を検討する早期の探索的試験の場合
二点目は早期の探索的試験の場合です。
早期の探索的試験には、薬剤の用法や用量を検討することを目的に行われる臨床試験があります。
このような試験では、治療効果を推定することや治療群間の比較よりも、
一方の治療の最適化が目的となります。
つまり、検出力が低下することを犠牲にしても、
一方の治療の症例数を増やして、精度よく最適な用量を探索することが優先されます。
そのため、早期の探索的試験では、不均等割付よりも不均等割付が正当化されることがあります。
安全性情報を追加で収集したい場合
三点目は安全性情報を追加で収集したい場合です。
例えば、試験治療が初めて人に投与される(First in human)場合、
未知の有害事象が観察されることがあります。
そのような安全性情報は、後続の試験においても患者保護に役立つため、
試験治療の症例数を増やす不均等割付を行う正当性があります。
まとめ
今回はランダム化比較試験における不均等割付の結果への影響と不均等割付が妥当と考えられる状況について解説しました。
不均等割付は検出力が低下したり、治療効果の推定にバイアスが入ったり統計学的なデメリットが考えられます。
ただそのようなデメリットを考慮しても、治療の最適化や安全性情報の収集を優先する場合には、
妥当であると考えられる状況があります。
ランダム化比較試験の不均等割付を行う際は、統計学的なデメリットと治療の最適化や安全性情報の収集といった目的を比較して、
本当に不均等割付を行うべきか検討するようにしましょう!
参考文献
今回参考にした論文は以下です。興味のある方は詳細までご覧ください!
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