生存時間解析では治療効果を推定するためにCox比例ハザードモデルを使った解析が行われます。
実はCox比例ハザードモデルの結果を正しく解釈するためには、比例ハザード性という考え方を理解しておく必要があります。
比例ハザード性とは「時点によらず群間のハザード比が一定である」という性質です。
Cox比例ハザードモデルでは比例ハザード性を前提としており、比例ハザードが成り立っていない場合には解釈することができなくなります!
そのため、Cox比例ハザードモデルを行うときには比例ハザード性を事前に確認しておく必要があります。
この記事では比例ハザード性の考え方と比例ハザード性を確認する方法を解説します!
ハザードとハザード比とは?
比例ハザード性を説明する前にハザードについて復習しておきましょう!
ハザードとは瞬間瞬間にイベントが起こる確率のことです。
例えば、10人を1年間追跡して3人が死亡したとすると、
死亡の起こる確率は人年法で3(人)÷{10(人)×1(年)}=0.3/年と計算できます。
これは年単位のハザードですが、年→月→…→秒のように小さくしていくことで、
瞬間のハザードを計算することができます。
つまり、平たく言いかえるとハザードはイベントが起こる速度と考えられます。
ハザード比はこのハザードの群間の比のことで、イベントが起こる速度の比のことを指します。
つまり、群Aに対する群Bのハザード(群Bのハザード/群Aのハザード)が1より大きければ、
群Bの方がイベントが起こる速度が早い、と判断できます。
このイベントが死亡であれば、群Aの方が群Bより予後が良いと言えますね。
イベントを死亡としたときの、群Aに対する群Bのハザード比と予後の関係は以下のようになります。
- ハザード比<1:群Bの方が予後が良い
- ハザード比=1:群Aと群Bの予後は同じ
- ハザード比>1:群Aの方が予後が良い
比例ハザード性とは?
比例ハザードとは、群間で時点によらずハザード比が一定である性質のことです。
比例ハザード性が成り立っている場合と比例ハザード性が成り立っていない場合のカプランマイヤープロットを見てみましょう!
比例ハザード性が成り立っている場合にはどの時点でもカプランマイヤープロットが一定の比率で差が開いており、治療効果の関係も常に変わりません。
一方で、比例ハザード性が成り立っている場合には、ある時点でカプランマイヤープロットが交わっており、治療効果の関係が逆転します。
比例ハザード性によくある誤解
比例ハザード性のよくある誤解は各群のハザードが常に一定である必要があるということです。
比例ハザード性はあくまで「ハザード比が一定」であることを条件としているため、
各群のハザードは常に一定である必要はありません。
例えば、1年時点で群Aのハザードが2、群Bのハザードが1であり、2年時点で群Aのハザード1、群Bのハザードが0.5、のように、どの時点でも群Aに対する群Bのハザード比が0.5なのであれば、比例ハザード性が成り立っていると言えます。
比例ハザード性の確認が必要な理由
生存時間解析において治療効果の推定値としてハザード比が用いられます。
このハザード比の推定するためにCox比例ハザードモデルを使った解析が行われます。
実はCox比例ハザードモデルは比例ハザード性を前提とした群間のハザード比を推定しているため、
生存時間解析では比例ハザード性が成り立つかどうかが非常に重要になります!
もし比例ハザード性が成り立っていない場合、Cox比例ハザードモデルを使った解析を行うと
結果の解釈ができないという問題が起こります。
例えば、以下のようにカプランマイヤープロットが交差する場合、群Aに対する群Bのハザード比は交差する前には1以上であるのに対して、交差した後には1以下となります。
このような場合、Cox比例ハザードモデルではハザード比が約1と推定されます。
つまり、カプランマイヤープロットは重なっている=群間でハザード比に差はないという解釈になってしまうということです。
そのため、生存時間解析で比例ハザードモデルを使う際には、比例ハザード性を事前に確認する必要があります。
比例ハザード性を確認する方法
比例ハザード性を確認するにはいくつかの方法があります。
ここではよく使われる3つの方法を見ていきましょう!
比例ハザード性を確認する方法
- 比例ハザード性の検定を行って確認する(非推奨)
- カプランマイヤープロットを描いて確認する
- 二重対数プロットを描いて確認する
比例ハザード性の検定を行って確認する(非推奨)
1つ目の方法は比例ハザード性の検定を使って確認する方法です。
比例ハザード性を確認する検定にはシェーンフェルド残差検定という方法が用いられます。
この方法では、
帰無仮説:比例ハザード性が成り立つ
対立仮説:比例ハザード性が成り立たない
として、比例ハザード性が成立するかを調べます。
もし検定によるp値が有意水準より大きければ比例ハザード性が成立すると判断します。
しかし、この検定は事後的に行われることが多く、有意水準を決めることが困難です。また、p値は症例数が大きいほど小さくなるため、症例数が少ないほど比例ハザード性が成り立つという結論になってしまいます。
そのため、比例ハザード性が成立するかを検定によって判断することは推奨されません。
詳細は正規性の検定が不要とする理由と同様ですので、以下参考までにご覧ください。
カプランマイヤープロットを描いて確認する
2つ目の方法はカプランマイヤープロットを使って確認する方法です。
この方法は比例ハザード性が成り立っていることよりも、
比例ハザード性が成り立っていないことを調べる方法になります。
比例ハザード性が成り立っていないときのカプランマイヤープロットは特徴的な形になるため、
これらを覚えておくことで比例ハザード性が成り立っていないことが一発で判断することができます!
比例ハザード性が成り立っていないカプランマイヤープロットでは以下のような図になります。
左の図ではカプランマイヤープロットが交差しており、交差する前後でハザード比が1をまたぎます。つまり、交差の前後でハザード比が変わってしまうため、比例ハザード性が成り立っていないと解釈できます。
また右の図は抗がん剤でも遅発効果が得られるような分子標的薬の臨床試験で見られる例です。
この例では、カプランマイヤープロットの前半は重なっているのに対して、後半では差が開いています。このような場合では、群Aに対する群Bのハザード比は前半では1、後半ではハザード比は1を下回ります。そのため、時点によってハザード比が変わってしまうため、比例ハザード性が成り立っていないと解釈されます。
このように比例ハザード性が成り立たないカプランマイヤープロットの形を覚えておくことで、
比例ハザード性が成立しない状況を判断することができます。
二重対数プロットを描いて確認する
3つ目の方法は二重対数プロットを描いて確認する方法です。
二重対数プロットは群ごとにX軸に時間、Y軸に時間ごとの生存割合の二重対数を取った値をプロットして作成します。
このプロットが群間でおおむね平行にプロットされていれば、比例ハザード性が成り立っていると判断します。対して、プロットが交わっている、重なっているときには、比例ハザード性が成り立っていないと判断します。
まとめ
今回は比例ハザード性と比例ハザードの確認が必要な理由について解説しました!
比例ハザード性は時点によらず群間の比例ハザードが一定である性質でした。
比例ハザード性は生存時間解析で治療効果の大きさを推定するCox比例ハザードモデルの前提となっている考えです。そのため、比例ハザード性が成り立っていないときにはCox比例ハザードモデルの結果が解釈できないため、事前に比例ハザード性が成り立つかを確認する必要があります。
比例ハザード性が成り立つかを確認するためには、カプランマイヤープロットや二重対数プロットを描いてみましょう!
カプランマイヤープロットのチェックポイントは重なっていたり、交差していたりしないか、
二重対数プロットのチェックポイントはプロットが平行に並んでいるか、ですので覚えておきましょう!
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