医学研究を行うときには、実臨床で感じる臨床的な疑問(クリニカルクエスチョン)を研究で検証可能な疑問(リサーチクエスチョン)に読み替えていく必要があります。
そのときによく使われる考え方がPICOとPECOというツールです。
この記事ではPICOとPECOの考え方と実際の臨床試験を使ったPICOの設定方法を解説します!
PICOとPECOとは?
PICOとPECOはこれから行う研究を構造化する4つの要素をまとめたものです。それぞれPICO(ピコー)、PECO(ペコー)と読みます。
研究をPICOやPECOで整理することで、クリニカルクエスチョン(Clinical Question; 臨床的疑問)をリサーチクエスチョン(Research Question; 研究的疑問)として読み解けるようになります。
PICOとPECOのそれぞれの要素は以下のようになります。
P(Patient) | 研究の対象 | どのような対象を調べるか |
I(Intervention) | 介入 | どの治療の効果を調べるか |
C(Comparison) | 比較対照 | 何に対して介入の効果の良し悪しを調べるか |
O(Outcome) | 結果 | どんな効果があればよい介入と考えるか |
P(Patient) | 研究の対象 | どのような対象を調べるか |
E(Exposure) | 暴露 | どの暴露の影響を調べるか |
C(Comparison) | 比較対照 | 何に対して暴露の影響の有無を調べるか |
O(Outcome) | 結果 | どんな効果があればよい介入の影響があると考えるか |
PICOとPECOの違いはI(intervention; 介入)とE(Exposure; 暴露)の部分です。これらの違いは研究のデザイン。PICOは介入研究、PECOは観察研究で使用されます。
以下ではそれぞれの要素について見ていきましょう!
PICOとPECOの共通要素:P, C, O
PICOとPECOの共通要素はP(Patient)、C(Comparison)、O(Outcome)の3つです。
それぞれの要素は介入研究でも観察研究でも同じ考え方で設定することができます。
P: Patient(研究の対象)
Patientは「研究の対象」を示しています。対象を適切に決めるということは、結果が出たときに「どのような対象に研究結果が適応できるか」ということにつながります。
研究の対象の決め方にルールはありませんが、一般化可能性や実施可能性を考えることで対象を適切に設定することができます。
C: Comparison(比較対照)
Comparisonは介入(I)や暴露(E)に対して効果を確認するための「比較対照」を表しています。
この比較対照は臨床研究においては非常に重要な意味があります。
というのも、臨床研究の基本は比較だからです。何かの介入や暴露の影響があったことを示すには、単に介入や暴露の影響を調べるだけでは不十分で、「何と比べてよかったのか」を調べる必要があります。
比較対照は介入研究の場合は標準治療、観察研究の場合は非暴露が設定されることが一般的です。
O: Outcome(結果)
Outcomeは研究の結果や研究の評価項目のことを指します。PICO/PECOを考える場合は後者の評価項目の意味で使われることが一般的です。
例えば、Oncology領域であれば、治療によって生存時間が伸びたか(OS)や腫瘍が小さくなったか(奏効)などがOutcomeとして設定されます。
Outcomeを評価することで介入(I)や暴露(E)が比較対照(C)と比べてどのような影響を与えたか、を評価します。
コラム:OutcomeとEndpointの違い
Outcomeと似た用語にEndpointという用語があります。Outcomeは研究の結果や評価項目であるのに対して、Endpointは有効性や安全性を測る評価項目のことを指します。そのため「EndpointはOutcomeの一種」ということになります。
PICOとPECOで異なる要素:I, E
次にPICOとPECOの異なる要素であるI(Intervention)とE(Exposure)の違いについて見ていきましょう!
これらの大きな違いは研究のデザインによるものです。
I(Intervention)は主に患者に行う治療といった介入の効果を調べる介入研究に使われるのに対して、E(Exposure)は特定の暴露を有する患者の経過を観察するような観察研究で使用されます。
そのため、PICOとPECOのどちらかを考えるかは、どのような研究デザインを考えるかによって考えましょう!
実際の研究からPICOを考えよう!
では実際にPICOを考えてみましょう!
今回扱うのはNew England Journal in Medicine (2023年 IF: 96.2!)にアクセプトされた以下の研究です。
この論文は非小細胞肺がんの患者さんに対するニボルマブの有効性を検証した第III相試験の結果報告です。
最初にこの研究のPICOをまとめると以下のようになります。
P(Patient) | 研究の対象 | 非小細胞肺がん患者 |
I(Intervention) | 介入 | ニボルマブ |
C(Comparison) | 比較対照 | ドセタキセル |
O(Outcome) | 結果 | 全生存期間 |
順番にどのように考えるか見ていきましょう!
Patient:非小細胞肺がん患者
この研究の対象は非小細胞肺がんの患者さんの中でも、前治療歴のある非小細胞肺がん患者さんです。その理由として、当時非小細胞肺がん患者さんのセカンドライン以降の治療成果が十分でなかったことが挙げられます。
そのため、まずニボルマブをセカンドライン以降の治療とすることを目的に、「前治療歴のある非小細胞肺がん患者さん」を対象としています。
これらの経緯や患者選択の詳細はIntroductionやMethodに書かれることが一般的ですので、これらを注目して読んでみましょう!
Intervention:ニボルマブ
介入は効果を調べたい治療のことを指しますので、この研究の場合は「ニボルマブ」が介入となります。
このような介入(試験治療)の詳細もMethodに記載されています。
Comparison:ドセタキセル
この研究の比較対照は「ドセタキセル」になっています。その理由として、当時の二次治療(標準治療)がドセタキセルであったということがあります。ニボルマブが新しい二次治療に取って代わるためには、現在の二次治療に勝つ必要があります。
つまり、当時の二次治療であるドセタキセルに対してニボルマブの優越性を示すことが必要になるため、比較対照は「ドセタキセル」となります。
Outcome:全生存期間
Outcomeの中でも研究で最も見たい効果指標(primary endpoint)は全生存期間になります。全生存期間はランダム化や治療開始日から死亡までの期間のことです。もっと簡単に言い換えると「寿命」と考えてもよいかもしれません。
つまり、「全生存期間が延びる=寿命が延びる」ということになり、患者さんの絶対的なベネフィットを表しています。そのため、全生存期間がOutcomeとなります。
OutcomeはMethodに記載されることが一般的です。
まとめ
今回はPICOとPECOの考え方を解説しました!
クリニカルクエスチョンを研究で検証するときにPICOやPECOを使って整理することで、研究の方向性が見えやすくなります!
またPICOやPECOは自分が研究をするとき以外にも、論文を読む際にも有効です。どのような対象、どのような治療、どのように評価するか、が分かることで、その研究が何を検証したかったのかが明確になります!
記事でも紹介したPICOの設定方法を参考に、自身のクリニカルクエスチョンを検証する研究の質を上げていきましょう!
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