観察研究の一種に前向きコホート研究という研究デザインがあります。
前向きコホート研究はエビデンスピラミッドでも、ランダム化比較試験の次に位置しており、非常にエビデンスレベルの高い研究であるといえます。
ではこの前向きコホート研究とはどのような研究デザインでしょうか?
今回は前向きコホート研究の概要と研究計画の方法について解説します!
前向きコホート研究とは?
前向きコホート研究とは興味のある暴露が罹患率や死亡率へどのような影響を与えるかを追跡によって調べる観察研究の一種です。
例えば「喫煙が肺がん発症率に影響があるか」を調べたいとします。その場合、前向きコホート研究では、追跡開始時点の喫煙の有無を調べ、その後数十年に渡って対象を観察することで、喫煙の有無による肺がんの発症率の違いを調べます。
前向きコホート研究は、後ろ向きの研究と異なり、暴露の状態が正確に調査できたり、暴露→興味のあるイベントの順で発生するため、その因果関係を明らかにできたり、というメリットがあります。
一方で、発症が稀なイベントを調べたい場合は調査期間が長期に渡るなど、大きなコストがかかるというデメリットがあります。
コラム:ランダム化比較試験との違いは?
ランダム化比較試験は介入と非介入の効果を調べる研究です。何かの影響を前向きに調べる点で前向きコホート研究と同様に考えられるかもしれません。ではランダム化比較試験と前向きコホート研究ではどのような違いがあるでしょうか?
実はコホート研究は介入できないような暴露の影響を調べることができる、というメリットがあります。
例えば、先の「喫煙が肺がんの発症率に影響があるか」を調べる研究。もしこの仮説をランダム化比較試験で調べようとすると、喫煙するか、喫煙しないか、を対象の意思に関係なくランダムに割り付ける必要があります。これは倫理的ではありません。
また遺伝子の違いなど介入ができない因子の影響を調べる場合にも、コホート研究は有用です。
ただし、前向きコホート研究では、ランダム化によって均質になると考えられる既知および未知の交絡因子は考慮できません。そのため、解析時点では既知の交絡因子を調整した解析が必要となりますし、結果にも未知の交絡因子の影響があり得る、という点には注意が必要です。
前向きコホート研究のリサーチクエスチョン
まず前向きコホート研究を計画する上で必要なのは、クリニカルクエスチョンをリサーチクエスチョンとして考えていく必要があります。例えば「喫煙が肺がんの発症率に影響があるか」では、何が暴露・非暴露なのか、何がエンドポイントになるのか、を設定していく必要があります。
こんな時に便利なのがPECOです。PECOは研究を構成する重要な4つの要素をまとめた指標のことです。例えば「喫煙が肺がんの発症率に影響があるか」を調べたい場合はPECOは以下のようになります。
構成要素 | 意味 | 例 |
---|---|---|
P(Patient) | 対象 | 肺がんを発症していない人 |
E(Exposure) | 暴露 | 喫煙 |
C(Comparison) | 非暴露 | 非喫煙 |
O(Outcome) | 結果 | 肺がんの発症 |
このように前向きコホート研究で、何と何を比較するか、比較をどのように評価するか、をPECOで整理することで前向きコホート研究の計画がスムーズになります。
前向きコホート研究の症例数設計
次に前向きコホート研究に必要な症例数を考えていきましょう!
症例数設計で必要な情報は臨床的に意味のある差、データのばらつき、αエラー、検出力です。前向きコホート研究でも必要な情報は変わりません。
例えば、「喫煙が肺がんの発症率に影響があるか」を調べたい場合には以下のように設定できます。
症例数設計の構成要素 | 例 |
---|---|
臨床的に意味のある差 | 肺がん発症のリスク比 |
データのばらつき | (リスク比の場合は自動計算) |
αエラー | 2.5%~5.0% |
検出力 | 80%~90% |
症例数設計についてもっと詳しく知りたい方は以下をご覧ください。
まとめ
今回は前向きコホート研究について解説しました。
前向きコホート研究はランダム化比較試験では調べることができない、介入が難しい暴露の影響を調べられる研究デザインです。また他の観察研究のデザインと異なり、暴露と疾患発症の流れが明確に調べることができます。
ただし、希少疾患など発症がなかなか起こらない疾患を対象にする場合には、多大なコストが必要になることには注意しましょう!
前向きコホート研究のメリットとデメリットを理解して、研究計画の力になれれば嬉しいです!
余談:研究の前向きと後ろ向き
今回は前向きコホート研究について解説しました。実はコホート研究には前向きコホート研究の他に、後ろ向きコホート研究(retrospective cohort study)という研究デザインがあります。
後ろ向きコホート研究では、最初に過去のカルテ情報などから過去の暴露の状態を収集し、現在までの疾患発症を調べるという研究です。例えば、「喫煙が肺がん発症に影響するか」を調べる際には、過去の喫煙歴を調べて、現在までに肺がんを発症しているか、を調べる、という研究デザインになります。
つまり、時間の起点が現在か、現在よりも過去か、によって、前向きと後ろ向きの呼び方に違いがあります。
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