論文の表やグラフで「平均値±SD」あるいは「平均値±SE」という表記を見かけますが、この2つを混同して使っている例は少なくありません。
標準偏差(SD)と標準誤差(SE)は、名前も計算式も似ており、どちらもばらつきに関連する指標ですが、それぞれが表している対象は異なります。
今回は、この2つの違いと、論文でどちらを報告すべきかを解説します。
標準偏差(SD)とは?

標準偏差(Standard Deviation:SD)は、手元のデータが平均値の周りにどの程度ばらついているかを表す指標です。
たとえば、ある研究で10人の患者の血圧を測定したとします。
このときSDが大きければ、患者ごとの血圧に大きなばらつきがあることを意味します。
一方、SDが小さければ、患者ごとの値が平均値の近くに集まっていることを意味します。
つまり、SDは、「このデータには、どのくらい個人差があるか?」を考えるときに役立つ指標です。
標準誤差(SE)とは?

標準誤差(Standard Error:SE)は、標本から計算した平均値などの推定値が、標本抽出によってどの程度ばらつくかを表す指標です。
たとえば、同じ母集団から10人ずつ何度も標本を取り出して、そのたびに平均値を計算するとします。標本によって選ばれる人が異なるため、計算される平均値も毎回少しずつ変わります。
SEは、このような標本平均のばらつきの大きさを表しています。
平均値のSEは、標準偏差をサンプルサイズの平方根で割ることで求められます。
SE = SD / √n
この式から分かるように、サンプルサイズが大きくなるほどSEは小さくなり、これはサンプルサイズが大きくなるほど、母平均をより精度よく推定できることを意味します。
一方、SDはデータそのもののばらつきを表すため、サンプルサイズを増やしたからといって、必ず小さくなるわけではありません。
SDとSEの違いの直感的な理解

SDとSEの違いは、次のように考えると分かりやすいでしょう。
- SD:「この集団のデータには、どのくらいばらつきがあるか?」
- SE:「この標本から計算した平均値(推定値)は、標本抽出によってどのくらいばらつくか?」
つまり、
SDは「データのばらつき」
SEは「推定値のばらつき」
を表しています。
同じデータセットから計算した場合、サンプルサイズが2以上であれば、平均値のSEはSDより小さくなります。
そのため、グラフのエラーバーにSDとSEのどちらを使うかによって、エラーバーの大きさが大きく変わることがあります。なお、エラーバーがSDなのかSEなのか、あるいは95%信頼区間なのかは、図の脚注などで明示することが重要です。
論文ではどちらを報告すべきか

SDとSEのどちらを使うべきかは、何を伝えたいのかによって決まります。
| 目的 | 用いる指標の例 |
|---|---|
| データのばらつきや個人差を示す | SD |
| 平均値などの推定値の不確実性を示す | SEや95%信頼区間 |
| 推定値の不確実性を読者に分かりやすく示す | 95%信頼区間 |
たとえば、患者背景を示すTable 1などで連続変数のばらつきを示したい場合には、平均値±SDがよく用いられます。
一方、研究結果として平均値や群間差などの推定値の精度・不確実性を示したい場合には、SEよりも95%信頼区間を示す方法が一般的に分かりやすいでしょう。
特に臨床研究では、
平均値の差:5.2(95%CI:1.1–9.3)
のように、点推定値と95%信頼区間をセットで示すことで、効果の大きさとその不確実性を同時に伝えることができます。
95%信頼区間の具体的な求め方については、「95%信頼区間の求め方と論文での書き方」で解説しています。
なお、どの指標を報告するかについては、研究デザインや分野、投稿先ジャーナルの規定によって異なる場合があります。実際に論文を作成するときは、投稿先のガイドラインも確認しましょう。
エクセルでの計算方法

Excelでは、標準偏差はSTDEV.S関数で計算できます。
標準誤差は、STDEV.S関数で計算した標準偏差をサンプルサイズの平方根で割ることで求められます。
たとえば、A1~A10(A1:A10)に10人分のデータが入力されている場合、
=STDEV.S(A1:A10)でSDを計算できます。
SEは、
=STDEV.S(A1:A10)/SQRT(COUNT(A1:A10))と計算できます。
まとめ

今回は、標準偏差(SD)と標準誤差(SE)の違いについて解説しました。
- SDは、データそのもののばらつきを表す
- SEは、標本から得られた推定値のばらつきを表す
- サンプルサイズが大きくなるほど、平均値のSEは小さくなる
- データのばらつきを示したい場合はSD、推定値の不確実性を示したい場合はSEや95%信頼区間が使われる
- 論文では、何を表している数値なのかを明確にすることが重要
論文の表やグラフを見るときは、「平均値±SD」なのか「平均値±SE」なのか、あるいは「95%信頼区間」なのかを必ず確認するようにしましょう!


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