疾患の有無を判断するためによく検査が用いられます。その検査が正しく陽性・陰性を判断できているかという性能はよく感度と特異度で評価されます。
例えば、COVID-19が流行した際にはPCR検査の感度が80%以上、特異度はほぼ100%というように連日報道されていました。
ではこの感度と特異度とは何でしょうか?またどのように使い分けるべきでしょうか?
この記事では感度と特異度の正しい解釈と使い分けについて解説します!
記事のポイント
- 感度は「真に陽性の人のうち、正しく陽性と判断された人の割合」
- 特異度は「真に陰性の人のうち、正しく陰性と判断された人の割合」
- 感度と特異度は罹患率に影響されないのでエンドポイントとして利用される
- 感度と特異度のどちらを重視するかは状況によって変わる!
感度と特異度とは?
感度とは「真に陽性の人のうち、正しく陽性と判断された人の割合」です。また特異度は「真に陰性の人のうち、正しく陰性と判断された人の割合」と定義されます。つまり、感度は「病気の人を正しく検出する能力」、特異度は「病気のない人を正しく検出する能力」を意味します。
感度と特異度は以下の式で計算できます(検査の陽性/陰性は表では陰性→陽性の順で書かれ、横に真の結果と縦に検査結果でまとめられることが多いので覚えておきましょう!)。
実際の数値で計算!
実際の数値を使って計算してみましょう!
100例に検査を行って、真に陰性と真に陽性の人の割合が4:6であるときを考えます。
この時、感度と特異度は以下のように計算できます。
陰性 | 陽性 | 合計 | |
陰性 | 30 | 10 | 40 |
陽性 | 10 | 50 | 60 |
合計 | 40 | 60 | 100 |
感度 = 50 / (10+50) = 83.3%
特異度 = 30/40 = 75%
なぜ感度と特異度が評価に使われる?
陽性的中率と陰性的中率
診断評価指標には感度と特異度以外にも陽性的中率や陰性的中率があります。陽性的中率は「検査陽性の人のうち、本当に陽性の人の割合」、陰性的中率は「検査陰性の人のうち、本当に陰性の人の割合」です。
ただ多くの場合、陽性的中率や陰性的中率よりも感度と特異度が使われます。ではなぜ感度と特異度が使われるのでしょうか?
その理由は「陽性的中率と陰性的中率は対象の有病率に依存する」からです!
有病率が変わった時の陽性的中率と陰性的中率を計算!
例えば感度70%、 特異度80%の検査を100例に行った場合に有病率が30%と70%のときを考えてみましょう。
有病率が30%のとき
このとき、陽性的中率と陰性的中率は以下のようになります。
陽性的中率 = 14/(14+21) = 40.0%
陰性的中率 = 56/(56+9) = 86.2%
陰性 | 陽性 | 合計 | |
陰性 | 56 | 9 | 65 |
陽性 | 14 | 21 | 35 |
合計 | 70 | 30 | 100 |
有病率が70%のとき
このとき、陽性的中率と陰性的中率は以下のようになります。
陽性的中率 = 49/(6+49) = 10.9%
陰性的中率 = 56/(56+9) = 53.3%
陰性 | 陽性 | 合計 | |
陰性 | 24 | 21 | 45 |
陽性 | 6 | 49 | 55 |
合計 | 30 | 70 | 100 |
陽性的中率と陰性的中率は有病率に影響される!
このように同じ感度と特異度でも有病率が変わることで陽性的中率と陰性的中率は有病率が変わると値が変わってしまい、検査の性能の印象も変わってきてしまいます。
また有病率が変わることはあまりないことじゃないか?と思われるかもしれませんが、対象の有病率が変わることはよく起こりえます!
例えば、がんのスクリーニング検査と確定診断。
スクリーニング検査段階ではがんを発症していない健常者が多く、確定診断段階ではがんを発症した患者が多くなります。
そのため、どのような対象を選んできたか?によって有病率が変わってしまうので、陽性的中率と陰性的中率の解釈には注意が必要になります。
対して感度と特異度は有病率が変わっても値が変わらないため、診断法の評価には感度と特異度が使われることが一般的です。
感度と特異度はどのように使い分ける?
感度と特異度はトレードオフの関係
それでは「感度が100%と特異度が100%の検査を探せばいいんだ!」ということでよいでしょうか?
確かに理想的には感度100%、特異度100%が最も望ましいですが、一般的には感度と特異度はトレードオフの関係になります。というのも、多くの場合、陽性と陰性を判定する基準の周辺の症例がいるため、感度を高くしようとすると誤って陽性と判定される症例が多くなり、特異度を高くしようとすると誤って陰性と判定される症例が多くなります。
そのため、感度と特異度両方100%になる検査を目指すよりは、どちらを重視して評価するべきかを考える必要があります!
感度と特異度は状況によって使い分ける!
感度と特異度のどちらかを重視するかは状況によって変わってきます。使い分けのイメージとしては、感度と特異度が低いとき、つまり病気の人または健常者を見逃したときにどんな影響があるか、を意識すると分かりやすくなります。
例えば、がんのスクリーニング検査と確定診断それぞれで感度と特異度が低いときを考えてみましょう。どちらの場合でも感度が低いとがん患者を見逃すことになり、特異度が低い場合は健常者を見逃すことになります。
スクリーニング検査
スクリーニング検査の段階での検査対象はがん患者よりも健常者の方が多くなります。
スクリーニング検査段階で感度が低い場合と特異度が低い場合の対象への影響を見ていきましょう。
感度が低い場合、致死性の疾患であるがん症例を見逃すこととなり、患者の余命に影響します。対して、特異度が低い場合、健常者を確定診断を進めることになります。多くの場合、スクリーニング検査よりも確定診断の方が侵襲が強い検査を行うので、対象の負担が大きくなるというリスクがあります。
ではどちらを見逃した方がリスクが大きいでしょうか?
多くの場合はがん患者を見逃した方がリスクが大きいと考えられるでしょう。その人の寿命に大きく影響しますからね。
そのためスクリーニング検査段階では感度が重視されます。
確定診断
確定診断の段階ではスクリーニング検査でがん疑いと判定された対象が検査の対象となるため、健常者よりもがん症例が多くなります。
確定診断段階で感度と特異度が低い場合、どのようなリスクがあるでしょうか?
感度が低い場合、こちらも同様にがん症例を見逃すことになります。対して、特異度が低い場合、健常者をがん治療に進めることになります。がん治療は手術にしろ薬物治療にしろ、毒性や侵襲など患者負担が大きい治療です。
こちらもリスクを比較してみると、健常者に侵襲の強い治療を行う方がリスクが大きいと考えられると思います。
そのため確定診断段階では特異度が重視されます。
まとめ
今回は診断法の指標である感度と特異度について解説しました!
- 感度:真に陽性の人のうち、正しく陽性と判断された人の割合
- 特異度:真に陰性の人のうち、正しく陰性と判断された人の割合
感度と特異度は状況によって「どちらが重要か」が変わってくるので、「陽性と陰性どちらを見逃すことが問題か」を意識して評価していきましょう!
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